大阪地方裁判所 平成3年(ワ)1163号 判決 1993年1月19日
原告
森本佳秀
被告
鎌田聰
主文
一 被告は、原告に対し、金九三〇万九一八一円及びこれに対する昭和六二年七月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金四〇〇〇万円及びこれに対する昭和六二年七月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 事案の概要
本件は、信号機により交通整理の行われている交差点に西進して進入した自転車と北進して進入した普通乗用自動車とが衝突し、自転車の運転者が脳幹挫傷、左上下肢不全運動麻痺等の傷害を負つたため、右運転者が右乗用自動車の運転者を相手に、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害賠償を請求している事案である。
二 争いのない事実等
1 事故の発生
次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
(一) 日時 昭和六二年七月一五日午後三時二〇分ころ
(二) 場所 大阪市住吉区苅田九丁目一六番二三号先交差点(以下「本件事故現場」という。)
(三) 被害車 原告運転の自転車(以下「原告車」という。)
(四) 事故車 被告が保有し、かつ、運転していた普通乗用自動車(泉五九そ四四三九、以下「被告車」という。)
(五) 事故態様 信号機により交通整理の行われている交差点を西進進入した原告車と北進進入した被告車とが衝突
2 責任原因
被告は、被告車を所有し、自己のため運行の用に供しており、自賠法三条に基づき、本件事故により原告がこうむつた損害を賠償する責任を負担している。
3 原告の受傷
原告は、本件事故により脳幹挫傷、顔面打撲裂創、剥皮創、左上腕挫創、右大腿打撲挫創、左腸骨骨折の傷害を負い、一か月程意識障害が持続し、次のとおり、入通院し、治療を受けた。
(一) 大阪府立病院
昭和六二年七月一五日から同年九月七日まで(五五日間入院)
同年一一月一〇日から同年一一月二四日まで通院(実通院三日)
(二) 鳥潟病院
昭和六二年九月七日から同年一一月二四日まで(七九日間入院)
(三) 阪和記念病院
昭和六二年一〇月七日から平成元年六月二一日まで(実通院四二一日) 平成元年三月三〇日症状固定
4 損害の発生
本件事故により、原告は、入通院雑費として計一三万三〇〇〇円を負担した。
5 損害の填補
被告は、原告に対し、本件事故による損害に関し、次のとおり合計一五八万二二七七円を支払つている。
(一) 大阪府立病院に関する治療費 五四万二三五〇円
(二) 鳥潟病院に関する治療費 七一万六一二七円
(三) 鳥潟病院の治療費名目での原告への交付金 四二二〇円
(四) 阪和記念病院の治療費名目での原告への交付金 六万九五八〇円
(五) 損害賠償内金名目での原告への交付金 一五万円
(六) 見舞金名目での原告への交付金 一〇万円
三 争点
1 過失相殺
(被告の主張)
本件事故は、被告車が青信号に従つて北進し本件交差点を通過しようとしたところ、原告車が赤信号を無視して西進し本件交差点に進入したために生じたものである。したがつて、本件事故の発生は、原告の過失によるところが大であるので、原告の損害につき、九〇パーセントの過失相殺がなされるべきである。
(原告の主張)
原告は、本件交差点が信号により交通整理の行われていることを熟知しており、赤信号を無視して交通量の極めて多い南北道路に進入することなどあり得ない。本件における実況見分は、被告のみが立合つて指示説明したものであり、その信憑性は乏しい。
仮に、原告が赤信号を無視して本件交差点に進入したとしても、被告にも制限速度時速六〇キロメートルを一〇ないし二〇キロメートルも超過して走行した過失があり、被告の過失割合はその自認する一〇パーセントを上回るものである。
2 原告の後遺障害の程度
(原告の主張)
原告は、本件事故による脳幹挫傷のため、つぎ足歩行ができないなどの失調症状、意味不明の言語を話す講語障害、酩酊様言語障害、知的障害などの障害が残存し、右障害は、自賠法施行令第二条別表の神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの(同表五級二号)に該当するから、原告は、本件事故により、その労働能力の七九パーセントを喪失したものとみるのが相当である。
(被告の主張)
原告の後遺障害は、自賠責保険の認定手続きにおいて、頭部に頑固な神経症状を残すものとして、自賠法施行令別表の一二級一二号と認定されている。原告には、ふらつき等の神経障害が認められるが、それ以外の精神、神経(運動)機能低下を示す検査所見は認められない。
3 その他損害額全般
第三争点に対する判断
一 過失相殺に関する判断
前記争いのない事実に加え、後掲の各証拠及び原・被告各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
1 本件の事故態様
本件事故現場は、別紙図面のとおり、市街地にある南北に通じる片道幅員六・二メートル、片道二車線の道路(以下「南北道路」という。)と、同道路と交差し東西に通じる同交差点東側での幅員総計六・三メートル、西側での幅員四・五メートルの道路(以下「東西道路という。」との交差点にある。南北道路の北行車線の西側には、幅一・六メートルの路側帯があり、その西側には幅三・五メートルの歩道がある。同車線の東側には、幅一・五メートルの中央分離帯があり、さらに同車線の東側には、片側二車線、片道幅員計六・二メートルの南行車線、幅一・八メートルの路側帯、幅四メートルの歩道がある。本件交差点東側の東西道路には、北側にガードレールでしきられた幅一・七メートルの歩行者通行帯がある。本件事故現場の速度規制時速六〇キロメートルであり、本件事故から約一時間後に行われた実況見分時、南北道路の交通量は三分間に約二七〇台であり、東西道路の交通量は同分間に約三〇台であり、路面は乾燥していた(乙第一号証)。
被告は、南北道路の北行き車線を時速七〇ないし八〇キロメートルで北進し、青色信号を確認し本件交差点に進入していたところ、対抗車線を走行する車両が通過した直後、その背後から東西道路を西進し同交差点に進入してきた原告車を三五・二メートル前方に発見し、衝突回避のため右へハンドルを切り、急制動の措置を講じたが及ばず、同交差点中央付近で自車前部を原告車に衝突させ、さらに一二・七メートル走行し、中央分離帯に乗り上げ被告車を転倒させ、原告を衝突地点から二五・四メートル跳ね飛ばし、転倒させた(同号証及び被告本人尋問の結果)。
2 なお、右信号に関し、原告は、東西道路を青信号に従つて同道路左端を西進していた旨主張し、原告本人尋問においても右主張にそう供述をするので、この点を検討する。
しかしながら、右供述は、交通量の多い南北道路を信号を無視して横断することは考え難いという一般的経験則に依拠した推測に過ぎず、具体的な記憶に基づくものではないから、にわかに措信し難い。さらに、南北道路が相当交通量の多い道路であること、被告は、原告車を発見し直ちにハンドルを右に切り自車を中央分離帯に衝突させ転倒させるという自己にとつても危険をともなう措置を講じたことを合せ考慮すると、原告車が対抗車線の車両の通過後突然自車進路前方に出現したという、被告の捜査段階以来一貫した供述はその信用性が高いものと解さざるを得ない。また、原告の供述どおり原告車が東西道路左端を走行していたとすると、実況見分時に現場に残されていた血痕に照らし、原告は衝突地点である本件交差点南側から(同交差点北側をさらに超え)約三〇メートルも跳ね飛ばされたことになるが、そう解することはいかにも不自然である。したがつて、原告の前記主張は採用できないものといわざるを得ない。
3 右認定事実をもとに、原・被告の過失割合を検討すると、被告は、青信号に従い、南北道路を北進し本件交差点に進入したのに対し、原告は、赤信号を無視し東西道路を西進して同交差点に進入し、しかも、その衝突地点は交差点中央付近であり、自転車としての交差点通過方法にも問題があつたとみざるを得ないから、本件事故の発生に関し、原告に極めて重大な過失があることは明らかといわざるを得ない。もつとも、原告車が自転車であり、走行の態様において一般の車両よりも歩行者に近い性質を有していると考えられること、被告車も制限速度を一〇ないし二〇キロメートル程超過して進行していたことに照らすと、本件事故の発生に関し、被告にも一割五分程度の過失があつたとみるべきである。したがつて、本件事故により生じた損害中、八割五分は、過失相殺により控除すべきことになる。
二 原告の後遺障害の程度
前記争いのない事実に加え、甲第一二号証、後掲の各証拠及び証人森本ヒロ子の証言を総合すると、次の事実が認められる。
1(一) 原告は、本件事故後、脳幹挫傷、顔面打撲裂創、剥皮創、左上腕挫創、右大腿打撲・挫創、左腸骨骨折、ストレス潰瘍により、昭和六二年七月一五日から同年九月七日までの間、大阪府立病院に入院し、治療を受けた。原告は、本件事故後約一か月間は、意識障害が続き、退院時も左上下肢に軽い運動麻痺がみられた(甲第二号証)。
原告は、同月七日から同年一一月二四日までの間、大阪府立病院の改装工事のため、鳥潟病院に七九日間入院し、投薬を受け、歩行練習をした(甲第三号証)。
原告は、同病院を退院後、同年一〇月七日から平成元年六月二一日までの間、大阪府立病院に通院した(実通院日四二一日、甲第九号、第四号証)。
原告は、平成元年三月三〇日、阪和病院において、後遺障害診断を受けた。同診断によれば、原告は、同日、症状固定し、病名は、脳幹障害、全身打撲、ふらつき転倒頻発、頭部MRI脳幹部挫傷痕、後遺障害の内容は、長谷川式痴呆スケール二九点であり、失調症状があり、つぎ足歩行及び片足立ちが両側とも不可であり、変換運動両側障害、腱反射両側亢進、講語障害があり、変度痴呆が遷延というものであつた(甲第五号証)。
また、平成元年八月三〇日における阪和記念病院の診断書によれば、原告は、平成五月ころより異常運動により突然転倒することがあり、性格が変化し、常識的判断力が低下しており、常時、監視と介護の必要があるというものであつた(甲第六号証)。
そして、平成元年九月における阪和記念病院の医師大槻秀夫の意見書によれば、原告は、脳幹出血、脳幹挫傷の傷害の後遺障害により、脳MRI検査で、小脳、脳幹部の萎縮性変化が確認されており、体幹部失調があり、日常生活で転倒等により傷ができやすく、知能レベルは中学校以下とされている(甲第七号証)。
そして、原告の母親である証人森本ヒロ子の証言によれば、原告は、大便一人でできず、小便をもらし、字も満足に書けない状態にあるとされている(同調書二九ないし三二項)。
(二) 当裁判所が採用した鑑定人である京都大学医学部脳神経外科の医師橋本信夫の鑑定結果の要旨は、次のとおりとされている。
「同鑑定人が、平成四年八月一〇日、直接、原告を診察したところ、顕著な体幹失調が認められ、つぎ足歩行はほとんど不可能であり、片足歩行も両側とも不可能であり、四肢の失調は軽度で、体幹失調の少ない座位においては衣服の脱着等に支障はないが、小脳障害によるものと考えられる酩酊様言語障害が認められた。
原告には、体幹失調のための転倒傾向、失調性言語障害が認められるが、これは、阪和記念病院で撮影されたMRI像での脳幹上部・小脳虫部の萎縮等に起因するものと考えられ、他に明らかな先天病変や腫瘍性病変等右症状を説明できる他の疾患は認められない。
平成元年三月一一日に施行された長谷川式簡易痴呆検査スケール(甲第五号証)では、関東大震災の発生年のみ不正解であつたものの、他の計算、四桁の数字の逆唱、五つの物品の記銘等は正解であり、このような検査での知的レベルは正常とも考えられる。しかし、一連の診断書及び連絡票などは小学生程度のレベルと表現されており、鑑定人が原告を直接診察した際にも、単純記憶はぼ正常であるが、現状認識や将来に対する意識などについては極めて幼児的発想が認められる。
以上から、原告の本件事故に起因する現症状は、体幹失調があり、つぎ足歩行不能で、片足立ちも両側とも困難であり、バランスを崩し易く、転倒の危険性は大きく、小脳性失調性構音講語障害があり、腱反射は左上下肢で亢進しており、頭部MRI像で小脳虫部、脳幹上部の萎縮性変化が認められ、知能レベルは低く、軽度痴呆の状態にあり、外出時には、監視、介護の必要がある。したがつて、原告の症状は、神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができない状態であり、自賠法施行令第二条別表(後遺障害別等級表)の五級二号に該当する可能性が十分にあるものといわざるを得ない。」
2 被告は、右に関し、原告の後遺障害は、自賠責保険の認定手続きにおいて、頭部に頑固な神経症状を残すものとして、自賠法施行令別表の一二級一二号と認定されていることなどから、原告には、ふらつき等の神経障害が認められるが、それ以外の精神、神経(運動)機能低下を示す検査所見は認められない旨主張する。しかしながら、原告には、右ふらつき等の神経障害以外にも前記のとおり、小脳性失調性構音講語障害があり、知能レベルは低く、軽度痴呆の状態にあり、外出時には、監視、介護の必要があることが認められ、右症状は、腱反射は左上下肢で亢進しており、頭部MRI像で小脳虫部、脳幹上部の萎縮性変化が認められるなど他覚的所見においても裏付けられているのであるから、右被告の主張は採用できない。
3 以上認定した原告の後遺障害の程度をもとに、同人の労働能力喪失割合を判断すると、原告は、日常生活において、転倒し易く、失禁傾向があり、大便も一人ではできず、軽度痴呆の状態にあり、幼児的発想をしがちで、酩酊様の言語を発し、外出時には、監視、介護の必要があることなどの障害が存することになるから、同能力喪失の程度は、極めて大きく、八〇パーセントを下回らないものと認めるのが相当である。
三 損害
前記争いのない事実(入院雑費として一三万三〇〇〇円を要したことは当事者間に争いがない。)に加え、前記認定事実及び後掲の各証拠によれば、次の事実が認められる。
1 治療費(原告主張三六万六五〇円) 一六九万八二三九円
原告は、前記各病院に関する治療費として、次のとおり、合計一六九万八二三九円を負担したことが認められる。
(一) 大阪府立病院 五四万六五七〇円
昭和六二年七月一五日から同年九月七日までの治療費五四万二三五〇円(乙第三号証及び被告の主張等弁論の全趣旨)と同年一一月一〇日から同月二四日までの治療費四二二〇円(乙第四号証及び被告の主張等弁論の全趣旨)の合計額
(二) 鳥潟病院 八二万六一二七円
昭和六二年九月七日から同年一〇月三一日までの治療費六二万九〇四七円(乙第五号証及び被告の主張等弁論の全趣旨)及び同年一一月一日から同月二四日までの治療費一九万七〇八〇円(乙第六号証)の合計額
(三) 阪和記念病院 三二万五五四二円
昭和六二年一〇月七日から症状が固定した平成元年三月分までの診療報酬点数計一〇万六四五四点に点単価一〇円を掛けた額の三〇パーセント相当額に、診断書料金三〇九〇円、明細書料金三〇九〇円を加えて算定した治療費三二万五五四二円(乙第七号証の一ないし一九)
2 付添看護費(原告主張五九万八五〇〇円) 〇円
原告は、原告の前記入院期間一三三日間の全期間にわたり、母親が看護に当たり、一日当たり四五〇〇円、合計五九万八五〇〇円相当の損害を受けた旨主張する。
しかしながら、前記入院期間に関して作成された各病院の診断書によれば、付添看護を必要とする旨の医師の証明がなされておらず(甲第二号証の一、第三号証の一、二)、他に付添看護を要したことを認めるに足る証拠はないから、原告の右主張は採用できない。
3 休業損害(原告主張六三〇万円) 五二三万一二五〇円
原告は、昭和三四年一月九日生まれであり、高校中退後、瓦職人をし、昭和六〇年一一月、労災事故で左手中指を失い、労災保険から休業補償給付を受けるなどして生活し、昭和六二年八月から住吉工業こと中川秀男のもとで就労を予定していた矢先、同年七月一五日、本件事故に遭つたことが認められる(甲第一〇号、第一一号証及び証人森本ヒロ子の証言)。
原告は、昭和六二年四月一日から同月三〇日までの休業補償として労働基準監督署から一五万六六〇円を得ていたことが認められるから(甲第一〇号証)、同金額を労災保険における休業補償支給額の割合である〇・六で除して同期間における月収を推認すると、二五万一一〇〇円(一日当たり八三七〇円、年収三〇一万三二〇〇円)となる。
なお、原告は、昭和六二年八月から前記中川秀男のもとで一日当たり一万五〇〇〇円、月二〇日稼働するとして、月当たり三〇万円の収入を得ることが見込まれていた旨主張し、その証拠として甲第一一号証を提出している。しかしながら、右額は、いまだ稼働実績を伴わない見込額に過ぎず、実際の稼働日数等がどの程度になるかは、右中川の受注状況、労務内容、同人のもとで稼働可能な屋根葺工の人数、原告の健康状態等様々な要因により異なる可能性があり、右主張は、にわかに採用できない。また、被告は、昭和六二年度における屋外労働者職種別賃金の統計資料(乙台一三号証)を挙げ、定額制屋根葺工の一日当たりの平均賃金は一万二五〇円であり、月平均実労働日数は二二日であることを指摘するが、右は一般的統計資料に他ならないから、他の証拠資料により原告の実収入自体を推認し得る以上、それに基づく認定をすべきであるといわざるを得ない。
以上から、原告の休業損害を算定すると、原告は、本件事故日である昭和六二年七月一五日から症状が固定する平成元年三月三〇日までの六二五日間の全期間にわたり、労働能力を完全に喪失していたものと認められるから、この間の休業損害を算定すると、次の算式のとおり、五二三万一二五〇円(一円未満切り捨て、以下同じ)となる。
8370×625=5231250
4 逸失利益(原告主張五八六五万八六三七円) 四六八八万〇五七〇円
前記認定事実によれば、原告は、本件事故前、年収三〇一万三二〇〇円の収入を得ており、満六七歳まで就労が可能と見込まれるところ、平成元年三月三〇日、症状が固定したが、本件事故による後遺障害のため、その労働能力を八〇パーセント喪失したことが認められる。
そこで、ホフマン方式により中間利息を控除し、症状固定(満三〇歳)後、満六七歳に至るまで約三七年間の後遺障害逸失利益につき本件事故当時の現価を算定すると、次の算式のとおり、四六八八万〇五七〇円となる。
3013200×0.8×(21.309-1.861)=46880570
5 慰謝料(原告主張一三三六万円) 一三〇〇万円
本件事故の態様、原告の受傷内容とその後の治療経過、前記後遺障害の程度、原告の職業、年齢及び家庭環境等、本件に現れた諸事情を考慮すると、慰謝料としては、一三〇〇万円(後遺障害慰謝料一一〇〇万円、その他二〇〇万円)が相当と認められる。
(以上小計六六九四万三〇五九円)
四 過失相殺及び損害の填補
前記認定のとおり、前記損害小計六六九四万三〇五九円のうち、その八割五分を過失相殺により控除すると、その残額は、一〇〇四万一四五八円となる。本件事故に基づく損害に関し、一五八万二二七七円が補填されたことは当事者間に争いがないから、同額を右損害額小計一〇〇四万一四五八円から控除すると、残額は、八四五万九一八一円となる。
五 弁護士費用及び損害合計
本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は八五万円が相当と認める。
前記損害合計八四五万九一八一円に右八五万円を加えると、損害合計は九三〇万九一八一円となる。
六 まとめ
以上の次第で、原告の被告に対する請求は、九三〇万九一八一円及びこれに対する本件事故の日である昭和六二年七月一五日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれらを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 大沼洋一)
別紙 <省略>